独:Der Alte würfelt nicht.
「――そう言えば以前…カノン君からレイに言付けを預かったわね。害虫、病気にお困りならハーグリーヴス御用達の庭師まで…とかなんとか。当主嫡男の癖に、庭いじりが趣味なのかしら」
憎まれ口を叩いていれば、彼が腰を上げてこちらに視線を向ける。
まさか聞こえていたのでは、と思い肝を冷やすが、当人は私を見つめて目をパチクリさせていた。
いつものカノン君なら、毒々しい投げキッスぐらいしてくる筈なのに、今日はどこか変だ。
塔の上程の距離から彼を見下ろしていると、両手を広げて何かを叫んでいるのが聞こえる。
「なーにッ!?聞こえないんだけどッ!!」
『――ル、ど…おくれっ!』
「あぁもう、男ならもっと腹から声出さんかいッ!!」
『ラプンツェル!ラプンツェル!どうか君の髪を下ろしておくれ!』
ラプンツェル、といえば有名なグリム童話の一つだ。
ある所に夫婦が居て、懐妊した妻が魔女の畑のラプンツェルが食べたいと駄々をこね、旦那が夜な夜な忍び込んで妻に食べさせる。
それが魔女にばれて、生まれてくる子供と引き換えに好きなだけラプンツェルを食べさせてもいいと言う約束だった。
妻が生んだ女の子を魔女が連れて行き、高い塔に閉じ込められてしまった彼女は、その長い金髪の髪をはしご代わりに使われてしまう。
「…暇なのかしら。顔はいいのに友達少ないのね、きっと。性格に問題があるのかしら」
ある日、王子様がラプンツェルの歌を聞き、魔女と同じ方法を使って塔に登った。
なんやかんやあってラプンツェルは妊娠、怒った魔女はラプンツェルの髪を切り落として荒地へ追放。
王子様がやってきてその事実を知り、塔から身を投げて失明してしまう。
長い間、盲目で森を彷徨っていた王子様は、男女の双子で暮らすラプンツェルに会い、彼女の涙で視力が回復。
王子様とラプンツェルは国に帰り、幸せに暮らしました、めでたしめでたし。