独:Der Alte würfelt nicht.
 
 
「…綺麗」


原種に近い薔薇が大きなアーチに這い、濃い緑の葉と淡い赤の花を情緒的に演出している。

メインガーデンの様に均等性のとれた薔薇園ではなく、多種多様の花が植えられていた。

有名な評論家はきっと陳腐な作品だと蔑むだろうが、素人の私の目を通せば造り手の愛情がひしひしと伝わってくる。

ふらふらと見て回っていれば、紅茶の優しい香りが私の鼻をくすぐる。


「気に入ってもらえて嬉しいよ、お嬢さん。俺はクラウン・ハーグリーヴス。帰りに君の好きなだけ摘んでいくと良い」

「私はアリス・ブランシュ。素敵なお庭に招待して頂いてありがとう。まるで此処だけ別世界みたい。メインガーデンも綺麗だったけれど、こちらの方がもっと素敵だわ」

「ははっ面白いお嬢さんだ。そんな素敵な褒め言葉を言われたのは初めてだよ。こんな可愛いお嬢さんに賞賛されてしまっては、本職の人間に妬まれてしまいそうだ」

「あら、ハーグリーヴス次期当主様が手入れした庭なら、沢山の人が絶賛の言葉を送っていると思ったのに」


クリーム色のシャツに、ブラウンのベスト、長い手足を優雅に使い丁寧にお辞儀をする。

レッドブラウンの髪、エメラルドの瞳の彼はレイと同じ年代らしく、大人びた表情とドキリとするような甘いマスクを持っていた。

表情をほぐして、鳥かごを模した温室に通され紅茶とピーチパイを振舞われる。

持て成すように引かれた椅子の背もたれには、華やかな白薔薇のレリーフが描かれていた。

蔓薔薇を編んで作られたようなテーブルの中央には穴が開き、薔薇が誘引されている。

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