独:Der Alte würfelt nicht.
「俺は当主候補から除外されたんだ。君は、何故カノンが君に固執するか…考えた事はあるかい?」
「私に利用価値があるからでしょう?愛だの恋だの、陳腐な感情で傍にいるとは思えないわ」
「はは、冷たい子だ。俺はさ、死んでいるんだよ。君が生まれたその日に。君が生まれる前までは、俺は生きていた。でも君は生まれてしまったから、俺は死んだ。それでよかったんだ、彼は…これで世界を救えるのだから」
「え、どういうこと?私が生まれたからって…どういう事よ。それに、彼って」
切り分けられたピーチパイの皿を目の前に置かれ、ガラスに薔薇の彫刻が施されているティーカップに紅茶を注がれる。
フォークを渡され、食べることを強制されるような沈黙が流れた。
口に運んだピーチパイは、バターの香りと爽やかな桃の甘さがとてもマッチしている。
食器の擦れる音だけが温室に響き、切り分けたピーチパイの最後の一口を口に入れた。
「俺はねアリス。黒羊の第一世代の一人なんだ。シャーナス家当主のレイやブランシュ家筆頭秘書官エリザベス・メイフィールド、ストークス家元当主のレオンやハーグリーヴス直系のラティーシェと同じ。君はハーグリーヴス家直系の血縁のラティーシェ嬢と、レイ・シャーナスの遺伝子を掛け合わせて作られた異端児。そして君こそが、この世界に革命を起こすべき存在なんだよ」
「ちょ…っと、待って。え、嘘よ…争いを防ぐために他家同士の直系の血統は交わってはいけない取り決めでしょう!?私が…ハーグリーヴスとシャーナスの子供なんて、そんなの…」
「禁忌だ。しかし…必要だった。君は本当にラティーシェの息写しの様だ。君はハーグリーヴスとシャーナスのパイプに役割になる。私もカノンも、ハーグリーヴス家とは一切血縁関係がない部外者なんだ」
「そ、れに…ッ以前のニュースで見たのだけれど、貴方とラティーシェ様は結婚しているんでしょう?どうして、私なんかが…ッ」