独:Der Alte würfelt nicht.
 
 
この国にはマークと呼ばれる四大名家が存在し、トランプの序列別に位が与えられてる。

その中で最も高位のハーグリーヴス家と、最も下位のシャーナス家との間に子を儲けることなど、どんな理由が存在しても“あってはいけない”。

ましてや、ハーグリーヴス家の派閥争いが原因で分裂し、新たに家を立ち上げたシャーナス家となど…許される事ではない。

隠されることも無く、殺されることも無く、自分の身が生かされている事に…奇跡だと感嘆の声すら上げられず、あまりの事実に不気味な違和感が取り巻く。


「ラティーシェがいるから俺はハーグリーヴスの姓を名乗る事が許されている。でもそれは…ラティーシェが息を引き取り、カノンがハーグリーヴスの血縁でない事が知られてしまった今では無意味だ。ここに俺が押しやられてる理由、分かった?」

「婿養子ってこと、ね。でも分からないわ、他人事のように言うけれど…貴方の、奥さんでしょう?試験管ベイビーだろうとは思うけど…レイの事、恨む筈よ」

「恨んだよ。でもカノンの方がもっと憎んだ。丸一年此処で暮らして、ある日家を出て行った。そして、君を手中に収める事で再起しようと奮闘している」

「仮にも、ハーグリーヴス本家筋の血統を持つ私に近づいた理由はそれね。うまく丸めこんで、子供さえできれば血縁者になれる。まったく…好きだ好きだって、嘘臭く近づいてきた裏にはそんな物があったなんて。ここに閉じ込められている理由もわかったわ」

「そう邪険にしないであげて欲しいな。あいつなりに、収拾がつかない事が多くてね。愛情とリップサービスの違いを学んでしまったんだから」


ハーグリーヴス家当主候補であったクラウン・ハーグリーヴスが、此処までの処遇を受けているとなると…カノン君は相当な温度差を感じただろう。

今まで良くしてくれたメイドはチップが貰えないと離れ、恩恵に肖っていた大人達は次々と去って行った。

中庭の物置小屋にはお愛想程度に置かれた古びたベッド、使い古しの椅子が2脚置かれているだけだった。

大人二人が手狭な小屋に押しやられた揚句、給仕されていた食事も使用人の賄い程度らしい。



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