独:Der Alte würfelt nicht.
「俺は、君の役に立ちたいんだ。君の知識になろう。アリスを手助けするグリフォンに」
「ちょっ、ちょっと…助けてくれるのは嬉しいけど、離してッ」
「…本当に似ているよ。君に俺の血が流れていれば、せめて二人で国の終焉を箱舟の中で見送れたのに」
「私はそんな腐った世界で生きるのはごめんよ。いっそ世界の沈没とやらの中で、レイと一緒に紅茶を飲み続けるぐらいの根性はあるわ」
凄みを利かせて下から睨みつけるが、クラウンは困ったように首をかしげるだけだった。
今は亡き彼の妻ラティーシェが、私に瓜二つだからと言って、重ね合わせるなんて失礼だろう。
私が存在する事によって忘れ形見となる子が生まれなかったとしても、それを私の所為だと責任を押し付けるのは余りに横暴だ。
私の遺伝子が掛け合わされた際、どの様な思惑が生じたかは知った事でもない。
「ははっ性格はレイそっくりだ。ラティーシェは頭の回転が遅い方だったし、お嬢様だったからね。うん、違う。君は彼女じゃない。いつでもおいで、今度はチェリーパイを焼いてあげるから」
「…そうね、気が向いたら食べにくるわ。その時はティーパックじゃない紅茶を持参してあげる」
「手厳しいな、美味しいのに」
「今日はご馳走様、あと脱走を手伝ってくれてありがとう。また、ご一緒しましょう。では、失礼いたしますわ、ハーグリーヴス元当主候補のクラウン様」
スカートの裾をつまんで優雅にお辞儀をすると、嫌味だと取ったらしく端正な眉を顰めて苦笑する。
赤い煉瓦造りの道を来た時のように辿り、彼に渡された名刺に書かれた通りの場所に向かった。
少しのチップだけでメアリー・ラッカムという女中を探し出し、使用人室に案内される。
休憩中の使用人に軽くお辞儀をすれば、新入りだと勘違いされたらしくコソコソと陰口をされた。