独:Der Alte würfelt nicht.
 
 
「――これに着替えて。仮パスポートの履歴は後で消しておくから。私物も渡しておくわね。携帯電話にノートパソコン…後他には…」

「感謝します、メアリー・ラッカム。この事、カノン君には…」

「給料三か月分のチップを弾んでもらっているし、割のいいバイトと思ってる。それに、こうでもしないと、ここからは出られないからね」

「ありがとう。よかったらメールの確認だけさせてもらっていいかしら。すぐに済むわ」


ノート型端末を起動している間に、服を脱ぎ、渡された使用人服に袖を通す。

カントリー調のフリルのあしらわれたブラウンロングスカートにエプロンを合わせ、腰でリボン結びにする。

胸元に赤いベルベット素材のリボンを結い、髪をレースの施された三角巾で覆う。

金のプレートに紋章の印がぶら下がった同系色のチョーカーを首に巻く。

その時、使用人達が見ているテレビのチャンネルを変えたらしく、アナウンサーの声に視線だけ向けた。


『――今回のテロリズムですが、在学中の生徒が犯行に及ぶまでの経緯は如何な物だったのでしょうか』

『そうですね。容疑者ルカ・ベルチットには両親が無く、家は荒れ放題だったという情報が入っております。それなのに部屋にあるコンピューターの数は7台、ノートパソコン4台。個人でネット企業を立ち上げていたらしいです。何度も学園内のサーバーに侵入しては試験内容を書き換えたり…データを弄って入学したと言う話もあります』

『次のニュースです。女優、デイジー・フィッシャーさんが電撃入籍を果たしました。お相手は――』


 ――ルカがテロリズムの容疑者ッ!?嘘だ、そんな事あるわけがないッ!!


私が眠っている間に更新されたテロに関する記事を読み漁るが、全てに“容疑者ルカ・ベルチット”という名前が書き記されている。

生い立ちなどを赤裸々に書かれた分もあれば、パラレルパラソルの事さえ批判されていた。

私が病院に運ばれてすぐ軍刑務所に送られたらしく、尋問を繰り返すが容疑を否定し続けている。

シオンに話を聞こうと携帯に掛けるが、マナーモードにされていて連絡がつかない。


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