独:Der Alte würfelt nicht.
 
 
「ホテルと遠くなかったんだ」


車が停車する振動が全身に伝わり、私も不安定になっていた意識を取り戻す。

運転手がドアを開け、私が降りれば一礼して駐車場に車を停めに行くのが見えた。

建物に向かい、透明な扉の中に入り、無人の受付に向かう。


「…本当に、面倒な造りね…」


警備の関係で一階には誰にも配置せず、受付に社員登録されたカードを通すことで、あのボロイ、…おっと素晴らしいエレベーターに乗って職場にいけるという仕組み。

カードを機械に通せば、液晶に電源が付き中に清楚な受付嬢らしき人物が現れた。

軽くお辞儀をし、私の姿を一瞥した後にニコリと愛想よくほほ笑んだ。


『ご来社ありがとうございます。アリス・ブランシュ様。社長から承っております。104階のプライベートルームでお待ちしているそうです』

「了承。今すぐそちらに向かいます」


液晶の電源が切れ、近くの機械に電源が入った。

他者には見えないように7桁の数字が表示され、その下のアーチの部分からは光が出ている。

私はそのアーチの中に手の甲を入れ、小さな画面に出る『後3秒』という文字を何となく眺めていた。

『終了』という文字が出た後、ゆっくり手を引き抜けば、先ほどの光に当てた手の甲に薄っすらバーコードのような物が浮かんでいるのが見える。

それを確認した後、ボロイ…おっと、華奢なエレベーターの横に設置しているバーコードリーダーに手の甲をかざした。

ほんの数秒でエレベーターが到着した音が聞こえ、それに乗り込む。
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