独:Der Alte würfelt nicht.
  
  
「――遅かったじゃないかアリス。ダージリンの葉が開ききってしまったよ。嗚呼、もったいない…いい茶葉だったのに。私は君を待つ間お預けを食らっていたんだぞ」

「先に飲んでいてもよかったのに。下手にお膳立てしなくても…」

「やはり紅茶は誰かと飲むに限るからな。お預けを食らっていても、だ」

「ずいぶんと後を引くのね…子供みたい」


テーブルに置かれたティーポットの中には紅茶の葉が開ききり、底に落ちてしまっていた。

ガラスの部分に触れても、じんわりとしか熱が伝わってこない。

紅茶は約95度前後の熱湯で入れ、その際にはポットもあらかじめ暖めておく。

ティーカップも同様に飲む側への小さな心遣いを欠かさない。

温もりを失った陶器を指先でなぞり、レイがどれほどの時間私を待っていたのかを思い知る。

冷めてしまった紅茶をカップに注ぎ、そっと口元に傾ける。


「こら、やめなさい!そんなもの飲むものではない。ダージリンは特に抽出時間が長くなると渋くなる。しかもそれはセカンドフラッシュだから…――嗚呼、眉を顰める位なら飲まなければいいのに…」

「レイが淹れてくれたのに飲まないなんて失礼でしょう?ちょっと苦いけれど…淹れ方が上手だから飲めないほどでもないし」

「…まったく。君は卑怯な策士だよ。そんなこと言われてしまったら…私も付き合うしかないじゃないか」

「あ、ちょっと!それ私の――」

「…苦味と渋みしかないな。飲めたものではないじゃないか。君は本当に…悪い子だよ」


私のカップに残っていたダージリンを飲みきり、テーブルに広げられていたカップを片づけてしまう。

直してしまうのかと思えば、レイは新しくお湯を沸かす準備をしていた。

ポットの中の茶葉を変えるレイの隣に立ち、繊細な手つきで紅茶の用意をする様子を見つめる。

再度カップを温めてくれるレイに、苦味の残った舌を軽く出した。

コツンとふざけた私の額を小突き、クッキーを口の中に押し込まれて舌をなおされてしまった。
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