独:Der Alte würfelt nicht.
『…久しぶり、アリス。貴女、犯罪者の癖にこんな所まで来て困ったものね。それに随分と兄様に色目を使ってくれたみたいじゃない』
「…御無沙汰ね、シオン。こうやってまた憎まれ口を叩き合えるとは思わなかったわ。それより…ルカの事、知っているわよね?」
『もちろん。だって…“この家の何処かに居るんだもの”』
「そう。ねぇシオン。私が此処に来るまでの過程において、ある一つの結論に至ってるの。良かったら貴方の聡明なお頭でその仮定を論破して頂きたいんだけど」
先日の学園テロの際に、何故ノエルが捕えられた挙句、犯人に仕立て上げられたのか。
黒羊と呼ばれ社会的に地位も確立していない上、デメリットしかない私達の存在が公表される事によって、誰の益に成るのだろう。
テロの主犯者に仕立て上げられたルカが、何故まだ生を許されているのか。
私が“様々な仮定の上”、ストークス本家へ足を踏み入れたのか。
――そして…――。
『…へぇ。面白そう。言って御覧なさい?』
「貴女が私の仮説を論破できなければ…ルカの所に案内して欲しいのよ。その後は私が全て終わらせるわ。もし論破された場合、大人しく罪を認めて出頭するわ」
『つまらない前置きは聞き飽きたの。愉快な屁理屈の時間はまだなの?退屈で死んでしまうじゃない』
「…私。貴女の事“姫ィさま”じゃないかって思っているのよ」
馬鹿らしい、と吐き捨てて欲しかった。
願うように絞り出した言葉は、確実に相手に届いている筈なのに。
まるでその言葉だけが見えない鋏で、切り取られてしまったかのようにかき消えてしまう。
もう一度、悲鳴を上げる喉を震わせようと息を吸えば、鼓膜が破れるほどの金切り声がノイズと共に鳴り響く。
肩を抱くウィリアムの手を振り払い、眩暈のする頭で彼女の指示する場所まで向かった。