独:Der Alte würfelt nicht.
『では本日はここまで。次の講義は――』
その声を聞きヘッドフォンを頭から乱暴に毟り取る。
他の個室の人たちも授業が終わった開放感のせいか、個室から出てきているようだった。
飲み物でも取りに向かおうと、ドア開閉ボタンに手を掛けた。
けれど違和感を感じ、扉の外から聞こえてくる声に耳を傾ける。
「――まずはインパクトが大切だもの。ルカ、やっぱり今後業務提携を結ぶに当たって、どれだけ相手方にメリットを提示できるかが必須よ」
「でもぉ…まずはお友達からってほうがいいんじゃない?下手に先入観もたれてもぉ…」
「急に押しかけてくる時点で、相当な不信感が発生するのは覚悟のうえよ!私達には彼女の能力が必要なの、だから…行くわよ!」
「んーっシオンってばあッ!知らないんだからねぇッ!」
扉の向こう側から聞こえてくる声は、私に何かしら用事があるらしい。
ならば、と開閉ボタンを押すと、突然扉が開いたのに驚いたのだろうか。
言い合いをしていた二人は、突然の私の登場に金魚のように口をぱくぱくさせていた。
「――あ…えぇとッ!はじめまして、私の名前はルカ・ベルチットって言います!貴方を、私達のビジネスパートナーとして採用したくて…嗚呼、シオンッ!続きはぁ!?」
「初めまして、私の名前はシオン・ラトゥール。今回、フェアリーシリーズ第2弾を製作するに当たって貴方の力が必要なの。今までの成績をすべて見させてもらったわ。10科目で777点それを転入当時からずっと続けてるなんて…」
「…あらら、素敵なご挨拶…。あと良いご趣味ね、学園の講師と悪い繋がりでもあるのかしら。エリート揃いのこの学園で、面汚しにしかならない成績結果を知っているなんて」
「ん、見かけによらず棘がチクチクだなぁ…。まぁ、あんな成績の取り方するんなら…予想はしてたんだけどねぇ…」
クリクリした琥珀色の瞳に、柔らかそうな栗色の髪はボブほどの長さ。
パステルカラーのミニクリップをいくつも髪につけていた。
口をとがらせて膨れている彼女をなだめるように、シオンと呼ばれた子が私と面と向かった。
黒髪と少し切れ目の青い瞳に射抜かれて、どこか後ろめたさを感じてしまう。