独:Der Alte würfelt nicht.
「ではごきげんよう。成績の件は黙っていてあげるから、そこを通してもらえる?」
「それは出来ないの。私達とお友達になりましょう。そうでないと、貴方にとってきっと面倒な事になると思うのよね?」
「面倒な事ね…。貴方達は一体何のために私に近づくの。能力を買って…というわけではなさそうね」
「能力と言うか…評判を買ってと言うかねぇ…」
肩に掛かる漆黒の髪に、強気な色をうかがわせる青い瞳。
どこか妖艶な魅力さえ漂わせる真っ赤な唇は、白雪姫を連想させた。
耳元に口を寄せられ、誰にも聞こえないように手の平で周りの騒音から声を守る。
ぼそりと、呟かれた言葉に私の顔からは血の気が引いた。
「うん、いい顔。その顔好きよ、アリス。私の名前はシオン・ラトゥール。こっちはルカ・ベルチット。私達、素敵なお友達になれそうだわ」
「そうそう!納期は近いから仲間は多くないとネッ!取敢えず仕様書を渡しておくからぁ、よろしくぅ!」
「ちょっと、待ちなさいよ!何処でその話を聞いたの…?絶対漏れないように穴は塞いだ。私を特定する事が出来ないように…情報網を張り巡らせたわ。当時の人間も実際に交流があったのはごく少数で…口外を固く禁じられている」
「大丈夫、誰にも言わない。だってそんなのつまらないわ。だから、仲良くしましょう?」
左手を差し出され、握らずにはいられない雰囲気を作られる。
躊躇いながらも持ち上げた腕を、ルカが強引に握らせた。
まるで対立関係の代表者が同盟を組む際に、友好をアピールするための握手の様だ。
爬虫類のように冷やかなシオンの手に握られ、その長い爪が蛇のように手の甲に食い込んで離さない。