独:Der Alte würfelt nicht.
――静かな昼下がり。
薔薇の芳香漂うテラスには、春を感じさせる優しい日差しが降り注ぐ。
芳しいオレンジペコの香りと、焼きたてのスコーンの香ばしい匂い。
うっとりするほどゆったりと流れる時間。
唇から溢れるのは、自分でもうっとりするほど甘い吐息。
紅茶に浮かぶ自分の顔をなんとなく見つめながら、カップを傾け、香りごと喉に流し込む至福。
暖かいだけでない柔らかな風は、甘い眠気を誘いつつもまるで自分もお茶会に参加させて欲しいと言っているよう。
軽やかに会話が弾む少女たちは、おしゃべりに夢中で時間がたつことすら忘れているよう。
他愛の無い話に花を咲かせる。
――ガシャンッ!!
その安らぎは、ティーカップを乱暴に置く音で、…中断されてしまう事になる。
「――ちょっとルカ!!私の春梅浸しふよふよポテト食べないでよ!あ、ああッそれ最後の一本だったのに!!もぉおおッ!!」
「んーンッ何これ、まずぅう…。シオン、味覚崩壊してるよォ。アリスぅ、ブランシュ家の権力使って明日学校御休みにしてよぉ。課題終わんなぃ…眠ゥ~…」
「ルカ、寝るな。初めてまだ30分よ。もうちょっと根性見せなさい」
「えへへ、無ゥ理。お勉強はおしまァい。それより見て、ほら…すごいでしょおッ!」
ルカは編集中の課題を閉じ、端末内でプログラムを立ち上げパンドラボックスへとログインした。
ルームと呼ばれる変更画面に表示されたのは、開発環境で眠る妖精。
ペットの位置づけになるが、仮想空間内を自由に散歩する事が出来る上、学習機能まで備えつけられている。
本来、仮想都市運営部が配信する物は学習機能は無い。
それにパラレルパラソルは加工を加え、グラフィックや性格などクライアントの意向に沿った作品を提供するのだ。