独:Der Alte würfelt nicht.
「――・・・う・・・ッ、・・・」
目覚めは最悪。
新車特有のツン・・・と鼻に付く臭い。
柔らかなクッションの感触。
――まだ車の中か・・・。
黒張りのガラスには、目的地についた気配すらもない、ただ連続する町並みを車が走るのが見える。
ガラスに映った自分のアメジストの瞳が、やけに眠たそうで、金の髪は折れてしまっていた。
乗り物酔いを少しでもましにする為、身体を横たえる。
髪を皮素材のシートに散らして、睫毛を伏せた。
――また、・・・変な夢。
手を額に置き、うっすらとかいた汗を拭う。
その指を瞼の上まで伝わせ、太陽の光から目を覆った。
指の間から瞳に届く優しい光が心地よく、海の水が太陽に反射しているようで、綺麗だ。
「アリス・ブランシュ様。まもなく到着です」
運転手の淡白な声が耳に届き、憂鬱な気持ちのまま手のひらをシートに落とす。
茶と赤のチェックのプリーツのがシートにひかれて皺になる。
先日新調した制服のスカートなのが惜しいが、濃茶の上着も無残な状態だろう。