独:Der Alte würfelt nicht.
 
 
「ごめんッルカ、アリス!大切なお客様が来る日だったの忘れてた!本当にごめんね!」

「えぇ~この後、倒れるまで徹夜卓球するって約束したのにぃっ!」

「…私はシオンに約束される前から断ってたからね…それ」

「と・に・か・く!今日駄目なんだぁ~来週にでも、ね?お願いっ!」

「…わかったよぉ…なら、ばいばい」


力なく手を振りながらシオンの後姿を見送ったルカは、彼女の姿が消えた途端――私を睨む。

残り92%という所でデータ転送を切断し、小型記憶媒体を乱暴に引き抜いて私に投げつけた。

あまりの急な豹変振りに呆気に取られ、今更になってルカが私に対して悪意を抱いていることに気づく。

指先で投げつけられた物を拾い上げると、今まで無かった大きな傷が痛々しく刻まれていた。


「…邪魔…しないでよ。そりゃ…アリスと私じゃスキルは比べ物にならないかもしれないけど…私だって3日あればできるし。わざわざ…当てつけみたいにさ…人に恩売って楽しいの?それとも本当にお友達になりたいわけぇ??だったらお断りだからね」

「…ル、カ…どうしたの?」

「人殺しの癖に。あんたなんか大ッ嫌い!嫌々やってんの分かんないの?シオンに言われたから、お友達ごっこに付きあってあげてるのに…ッ人殺しの癖に思いあがらないでよッ」

「…気分を害したなら謝るわ。それに“お友達になってくれ”なんて一度でも口にしたこと無かったはずよ。何が気に食わないのか知らないけれど…私への苦情なら一度シャーナス家を通して頂かないと、聞く値しないと判断するわ」


シオンが帰る前とは想像もつかないほどの豹変ぶりに、負けじと口調を強くする。

内情を知っている人間から心無い言葉を浴びせられた時、無粋に謝罪しようとした私をレイが咎めた事を思い出す。

自らを軽んじるなと、個人の言葉に耳を傾けるならば相手にも相応のリスクを負わせるべきだと。

敵意をさらけ出して一方的な批判はあってはならないと、強く叱られた事があった。
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