独:Der Alte würfelt nicht.
「な、にその言い方ッ!あんたの所為で何人が死んだと思ってるの!?まるで他人事みたいに…ッそ、の言葉ッ被害にあった人達に言えるの!?謝罪するべきじゃない!!」
「貴女様はあの事件で何か不幸になりましたか。母を亡くし、子を亡くし、父を亡くし、兄弟を亡くしたというのなら、どうかこの身を地獄の業火でお焼きください。もしそうでなければ、私への批判は正式な文章でシャーナス本家へ送付ください。まぁ…今までそういった文書が私の手元に届いたことは一度たりともありませんでしたが」
「何よ、それっ!不幸になったとか、なってないとか関係なくてッ何も思わないわけ!?最低だよ…未だに、苦しんでいる人だって――」
「貴女様が被害者の代弁をするのは一向に構いません。ですが被害妄想を広げて正義感を振り下ろすのは、裁判を起こさず死刑を宣告するのと同じ事と思えますが…?」
桃色の口紅が引かれた唇は、歯が立てられて口内へと押し込められた。
ラメの散りばめられた目元は、水彩画のように淡く幾重にも色が重ねられている。
愛らしい目を演出していたのは、不自然に上を向いた睫。
シオンと対照的だと評価していたが、撤回する日も近そうだ。
「ブランシュの姓を語る身ですので。安易に頭を下げるのは、君主以外必要性を感じません。しかし、ただの“アリス”としての謝罪をご希望でしたら、泥に頬を擦りつけ許しを請いましょう」
「そ、んなの…出来るわけッ――!」
「先ほど、謝罪を要求する発言がありましたので。貴方様にも相応のリスクを負っていただきます」
「ま、待ってっ…そんなの、いらない!こんな所でやめてよっ!!」
「大丈夫、貴女様がお許しになれば…すぐ済みます。それに“慣れて”おりますので」
赤と白のレンガの組み合わされた地面に両膝をつき、スカートの端を摘まむ。
レイに止められてからは、“彼の前だけ”では控えるように心掛けていた。
彼の居ない場で中傷的で心無い言葉を向けられた時は、神に懺悔するように許しを請う。
大抵、周りから白い目で見られるのを恐れた相手は、足早に尻尾を巻いて逃げてしまう。