独:Der Alte würfelt nicht.
「…綺麗ね、夕日…」
包むような優しい夕焼けに、春を感じさせる柔らかな風。
何処までも美しく情緒的に演出するパンドラの環境システム。
二日ほど前、不具合があったようで予報もなく急に泣き出していた空は、嘘のように穏やかだった。
ブランシュが私の為に用意してくれたマンションまで歩いて15分なのに、レイが用心深く運転手を付けてくれている。
――レイが一緒に住む事を提案してくれたけれど…嬉しい半分、まだ快く了承は出来ないわね。
一緒に住むという事は、彼の私生活を殆ど垣間見ることが出来るということ。
好意を持った相手と時間を共有できるのは嬉しいに決まっている。
軍とシャーナス家当主としての激務をこなしている彼が、唯一の安らぎの場を二人で共有したいと言い出して着た時は夢心地だった。
朝起きて一番に挨拶し、お帰りなさいを言える特権を貰えるのはきっと世界で一番幸せな事。
――でもレイが向ける視線が…好意だけではない事には薄々感づいているのよ。
私が彼に居抱く感情と、彼が私に居抱く感情が異なった場合、話は大きく変わってくる。
恋人なんか紹介された日には、次の日から家出だろう。
私だってレイに見られたくない部分は隠しておきたいし、何より幻滅されるのが嫌なのだ。
下らないプライドだと言う事も理解した上で、未だにレイとの生活を始める事を戸惑う自分が恨めしい。