独:Der Alte würfelt nicht.
「――事態が急変した。思いの外、パンドラのシステムの損傷が激しい事が分かった。パンドラの修復機能と代償機能が現在カバーしているが…いつ停止するか分からない状況らしい」
「そ、それって…マズイって状況じゃないわよッ!早く修復を…って、そうだ権限が無いから外部干渉が無理で…ッど、どど、どうすればっ…!!」
「どうしようもないな。だが放っておけば国が滅びる。…と、いうわけで。君の力を借りたいんだよ、お嬢さん」
「わ、わわ、私!?無理よそんなのッ!!そうだ、居るじゃないッ適任者がッ!!カノン君って黒羊の一人だから、パンドラを開けられる可能性もッ――」
そこまでパンドラのシステムが危険な状態だなんて、夢にも思っていなかった。
どちらかと言えば、開発者達が如何にかすると、勝手に楽観視していた。
それは数年を見越していた為、いきなり現実的な数字を出されて背筋が凍る。
眠る前の子守唄程度に数日思考を凝らしたが、不可能という事で結論付けてしまっていたのも事実。
「序列第一位ハーグリーヴス家が、パンドラのシステムを所持しているのは知っているだろう?」
「えぇ…国の設立に携わったか何かでしょうッそれが何なの…!?」
「ハーグリーヴスは、内密で外界から完全に遮断される広大な空間を所持しているらしい。つまり…この国パンドラを捨て、新たに国を立ち上げるんだと。だから協力する理由は無い、と」
「システムが全停止すれば…汚染された空気がパンドラに入り込み、有害な光に焼かれて人は死ぬわ。それを危惧していて尚…見放すと言うの…ッ」
あまりに非情な現実に耐えられず、唇を血が出るほど歯を立てた。
レイは難しい顔をして私の背を擦りながら、車に乗るように促してくる。
体を屈めて乗り込むと、どこか懐かしい新車の香りが鼻に付いた。
横に乗り込んでくるレイは、座席の左側にある操作パネルを弄り車を発車させた。