独:Der Alte würfelt nicht.


――私がブランシュに受け入れられた理由と同じ…。


物心付く前から国の教育施設で特殊な生活を続けていた私がブランシュに引き抜かれた理由は…成績が優秀だったと位にしか聞いていない。

レイが私と同じように引き抜かれ養子になったと仮定しても、シャーナス本家の当主の座と軍職に就いている事の説明が出来ない。

そういえば以前、黒羊を四大名家マークの跡継ぎ据える、という話を先日訪問した際レイから聞いたことを思い出す。

様々な観点から仮定を立て論破し、そして唯一残った疑問を彼へ投げかける。


「その若さでシャーナス家当主…黒羊の第一世代の生き残りとか、言わないわよね?」

「…察しが良過ぎると、男に逃げられるぞ」

「でもレイが軍人をやっている理由はわからないもの。黒羊のプロジェクトの職員だったんでしょう?…嗚呼、違う。二世代目の際に職員として迎え入れられたんだったわね…ッつまり、えぇと…」

「黒羊の第一世代L型と呼ばれていた。第二世代とは遥かに劣る性能だとしても、非凡な人間とは比べ物にならないからな。第一世代の生き残り三人は、シャーナス、ブランシュ、ハーグリーヴスに籍を置くことになる。もっとも、3人の中で最も才覚に溢れカリスマ性のあった私は、シャーナス本家跡継ぎを差し置いて当主の座に躍り出た…というわけだが」


シャーナス家は他三家に比べ歴史が浅く、その発祥自体ハーグリーヴスの派閥争いで籍を除外された者達が新たに築いたと聞かされている。

しかし疎外された筈のシャーナス家が、ここ数年の間にハーグリーヴスと手を結んだと俄かに囁かれているのだ。

その噂が流れ始めたのが、正式な本家跡継ぎであった人間を出し抜き、強欲にも最年少でシャーナス本家当主として君臨した頃。

レイ・シャーナスという人物に対して世間の評価は、カリスマ性のある指導者ではなく“死肉を漁るハイエナ”という位置づけをされているのも事実だ。

私も大衆から同じ評価を与えられている事もあり、口には出さないが彼と同じ境遇だとすら思う。




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