独:Der Alte würfelt nicht.

 
車が停車したことを振動で感じ、身体を起き上がらせた。

窓から見える建物は周りのビルや店を圧倒するほどの大きさ。

荒地に聳え立つ塔のような存在感に、私は唇を軽く噛む。

不意に窓の外から一人の男性が現れ、ドアを開ける音が耳に伝わる。


「アリス、乗り物酔いは大丈夫か?少し休む?」

「ん…平気よ、レイ。色々出そうだけどいざとなれば、飲めばいいんだし…!」

「待て待てッ!可愛い顔して言うんじゃないッ!」

「いや…酔い止めだから」


私の様子に少し頬を染めて耳の裏側を掻いた。

チラリと運転手と視線を交わらせた後、咳払いを一つ。

手の平を自分の心臓の上に置き、恭しく“今更な”挨拶をする。


「ではアリス・ブランシュ様。ここからの案内人を務めますレイ・シャーナスでございます」

「ふふふ、何それ。気持ち悪いわね、レイ」

「…それ、結構失礼だろう」


彼の言葉に小さく微笑み、乱れた髪を整えた。



< 6 / 365 >

この作品をシェア

pagetop