独:Der Alte würfelt nicht.
「偉く辺鄙な土地ね。第一エリアから離れると何処もこうなのかしら」
「ここはパンドラと外界を阻む壁にとても近い場所だ。パンドラ第14エリアNo.12T043F。数日前にパンドラと外界を遮断する防護壁に損傷が生じ、有害な外気が漏れ出ていた。いまは鎮静化されているが…危険区域として隔離し閉鎖した地域になっている」
「それもパンドラの管理システムに不具合があった所為よね…今までそんな話聞いたことも無いし。まぁ…表に出なかっただけかもしれないけれど」
「その回答は控えよう。此処はシャーナスの敷地の一つで、主に研究施設として機能していた。だが、損傷が発見されてからは研究員全員を避難させたため人一人いない。私達を除いて、だが」
IDを照合させ扉を開けるレイの後ろに続いて建物の中に入る。
廊下を照らす頼りない光を頼りに、私は転ばないように注意して歩くしかなかった。
彼の後ろを小走りで付いていくと、5分ほど歩いた所で壁にぶつかる。
引き返すのかと思ったら、レイは“何か”を操作した後に私の腕を掴んだ。
「おいでアリス。少し揺れるから掴まっていなさい」
「な、によ。何よ、これ――ッ!!ぎゃあああぁっあッ!!」
「こら、暴れるな。安定装置が付いているとはいえ、浮遊個体が複雑な動きをするほど危険度が増す」
「浮いてるよ、浮いてるから!!ちょっ、と!重力安定装置は人体の影響を考えて直接、人間には使用できないはずでしょう!?うわあぁああッ内臓が、内臓がふわふわ浮いて喉から出てくるかもしれないッ!!誰か、誰かあぁああッ!!」
エレベーターかと思っていた扉が横開きして、乗り込むのかと思えばそこに足場は無い。
本来なら小部屋状の箱が上下に行き来して、人間を運ぶ為の機械の筈なのに。
緩やかに降りて行く体を、識別装置らしき赤いレーザーが頭の先からつま先まで検査していく。
機械的な音声にレイが答えるが、足元が不安定でいつ地面に転落してしまうのではないかという妄想にとり憑かれる。
目を閉じてレイの腕を両手でしっかりと抱きよせていると、コツンという軽い音がして呆気なく地面に着地した。