独:Der Alte würfelt nicht.
「――す、すご…っ!!な、になにこれッ最先端の技術ばかりじゃないッ!!あ、あれは確かFD型の後継機種ッ!!それにこんな小さな装置で重力を…ッ!」
「アリス、身に付けているもので濡れてまずいものはあるか?」
「えと…特にないわ。何、水遊びでもするのかしら」
「近いが正解ではない。この機械の名前はAT-3324VG。アリス、靴を脱いでこちらへ来なさい」
レイに促された通りに上質な革素材の靴を脱ぎ、テーブルの陰に踵をそろえて置いておく。
手招きをする彼の元に、違和感が拭えない下半身を引きずってぎこちなく歩み寄る。
レイが立っていたのは無機質な電子機器に囲まれた――透明の球体の機械らしき傍。
その形状からして母体の羊水を連想させられ、注意して指で触れてみると、まるでゼリーをスプーンで突いた様な柔らかな弾力に押し返された。
「アリス」
「何これ、ふよふよしてる。ふふ、クラゲみたい」
「悪いな」
「へ、え、あ…ッぬおおぉおおっ!!!」
レイが勢いをつけて背中を押したせいで、私の体は一気に斜めへと倒れこむ。
私は目を閉じて衝撃に備えるが、肌に感じた感触はまるでホイップクリームの海に溺れたような感覚だった。
常温の空間に閉じ込められて、肺に入ってくるはずの空気が全て遮断された。
暴れるたびに肺の中の空気が失われ、液体を大量に体内に流し込んでしまう。
手を伸ばしてレイに助けを求めるが、事態の張本人がそんなことする筈がない。