独:Der Alte würfelt nicht.
「あまり暴れるな。今薬剤を流し込んだから、そのうち眠くなる」
「いっ…レ…イぃい…っごふっ…かはっ……」
「全部吐き出してしまいなさい。そうすれば息ができるようになる」
「…イ…ッレ…いぃい゛…っ!!」
肺の中にため込んでいた空気をすべて吐き出し、狭い水槽の中で私は溺れた。
しかし、溺れるという表現は…あまりにも不適切かもしれない。
肺に取り入れられる酸素は存在しないが、不思議と息苦しさは無い。
声を発することは出来ず、まるで魚のように口をパクパクとさせるしかなかった。
「さぁパンドラを開けよう。その中には希望か絶望か…どちらにしろ、我々の未来が委ねられていることには違いない。眠るんだアリス、夢の中だけが君の世界だ」
この水槽に繋げられた管から、着色された液体が流れ込んでくるのが見える。
無意識のうちに瞼が重くなり、液体の温度も少しだけ低下したような気がした。
現実なのか夢なのか判別できなくなるが、レイがそこに居る事だけはまだ分かった。
実際の記憶には無いが…母親の羊水の中はきっとこんな感覚なのだろう。
口の中に残っていた最後の泡の粒が上昇していくのを、途切れる意識の中でなんとなく眺めていた。