独:Der Alte würfelt nicht.
『――アリス、アリス。聞こえるか?』
夢の中でレイの声が聞こえるけれど、起きるのが億劫で返事を返す気にもなれない。
休日にお布団の中で転寝するような心地よさは、夢の中でも妨げられたくないものだ。
レイの声を無視しようとするが、まるで音響のボリュームを上げたようにうるさくなる。
夢の中でもレイにこき使われのは癪だが、これ以上不愉快なまま寝ていられるわけも無い。
文句の一つでも言ってやろうと思い、夢の中で目を覚ました。
『――なぁ…によ、レイ。いい気分で寝てたのに、ったく…チッ』
『女の子がそんな言葉を使うんじゃない。それよりも、夢の中くらい部屋を片付けなさい。出したものは元の場所に戻す、脱いだものは洗濯する。常識だろう』
『夢の中まで説教しないで。まったく、まったくもぉッ!夢なら私の好きなようにしてもいいでしょう?レイはうるさい、レイはうるさいの』
『別に構わないが、このやり取りも今見えている光景もデータ化されて一生残る。ここは君の精神世界。君の本質、本音が顕在し、眠る場所。あまり詮索されたくなければ、心に鍵をかける手段でも学ぶんだな。それか、部屋を毎日片付ける習慣をつけるか…だが』
レイが私の部屋を物色し始めるのを、私は止める事も出来ずに眺めていた。
たしか夢を見ている事を自覚する夢を明晰夢といい、最近は医療関係でも活用されるようになっているが…。
外側から干渉することは可能でも、他人が夢の中に入ってくる事は、まだ出来ないはずだ。
だからこれは、私が見ている変な夢って事になる。
明晰夢を見るのは稀だが、なんだかこの夢は少し違う気もした。
『前に入った時とは内装が変わったようだ。以前はもっと淡白で何も無かったが今では…色々小賢しいものまで目立つようになったな、アリス。何だこれは』
『人の部屋勝手に漁らないで!夢でも不愉快だわ!まったく、明晰夢なのにどうして私の思い通りにならないのかしらッ!不愉快だわ、不愉快よ!出てってーッ』
『まったく、入り口でこれなら先が思いやられるな』
『もう変な事ばっかりッ!難しい事なんてわからないもん!夢なら覚めて、早く早く!うぅうっうわああ~~んッ!!』