独:Der Alte würfelt nicht.
夢の中の私は、違和感があるぐらいに幼い言動をしていた。
レイと喋っているはずだけれど、想っている事と口に出した言葉が若干ずれている事に気づく。
自分の泣き叫ぶ声が部屋に響いて、酷い違和感と共に眩暈が襲ってきた。
レイが困ったように頭を抱えていて、本当は私自身、全然悲しくもなんともなくて。
その事を伝えられない事が、もどかしくて堪らない。
『“アリス”この子に流されるな。君の姿をしてはいるが、この子は君の精神世界の“門番”、“防護壁”の様なものだ。このような幼い言動をしているのは、君が私を煙に巻こうと思っているからだろう』
――煙に巻くって…。レイは私に話しかけてる…?
『“彼にはこういう対応”、“君にはこういった反応が効果的”等と言う、自分の本質に沿わない感情のことだ。自己防衛や相手の好感を得たい場合に現れる。だからこのアリスは、私を困らせようと思って君が具現化した一部だ』
――なんだか変な話しになってきたみたいね…早く覚めないかしら。
『実態は何処だ。出てこい、アリスの守護壁。こちらも時間がない、この場に顕著しろ』
クスクス、クスクスクス
耳の近くで、部屋の隅で、天井の所で、テーブルの下で。
甲高い笑い声が溢れかえり、これが乱反射して多重音楽のように重なるのだ。
何かが部屋中を走り回る靴の軽い音が、忙しなく鳴り響く。
それに意識を向けていたら、私の体に強烈な圧を感じて―――吹き飛ばされた。
壁に激突したけれど、何か柔らかいものに包みこまれてけがを負わずに済む。