独:Der Alte würfelt nicht.
膝や手首、指の関節に至るまで球体を埋め込まれた体。
球体関節をまるで人間のように動かし、クスクスと笑いあった。
人形のような身なりをしてはいるが、表情は豊かで笑みさえも浮かべている。
≪失礼、失礼だ。君も、君もそう思うだろう?ヘリオドール≫
〔えぇ、そうね。失礼だわ、くふふ、失礼。ゴシュナイトお兄様をそんな風に呼ぶなんて、失礼。くひゃひゃひゃッ!〕
≪あれ、あれ?ヘリオドール、君がお姉様じゃなかった?僕らはどちらが先に生まれたか知らないよ!どうすればわかるのかな。嗚呼、でも、あ。ああ――あ、あれ?何の話をしていたんだっけ?忘れてしまったよ、ヘリオドール≫
〔“妹”は覚えておりますのぉッお兄様あ!キャンディをつつくハチドリの話だったわ!くひゃひゃッハチドリは鳥なのかハチなのか!妹は分かっていますわ、そう、妹はナイトお兄様より“かしこい”のです!ハチドリはどうやって花の蜜をかすめ取るのか!くひゃああひゃあッ!!
絹を切り裂くほどの高い声が、ヘリオドールと呼ばれた少女から発せられた。
その声を皮切りに、鼻を塞ぎたくなるような甘い匂いが立ち込める。
部屋には見た事も無い南国の花が咲き乱れ、それに集るのは鳥と蜂を足したような生物だった。
羽を残像が出来るほどの速さで動かし、幾羽のハチドリが羽ばたく音で耳が痛くなる。
長いくちばしを器用に使い、小さな体で何匹も一つの花に集る映像を、私は知っていた。
私の中で一つの答えが出そうになるのを、喉の手前で止める。