独:Der Alte würfelt nicht.
≪ほら、絶える事の無いお喋りをしよう!大切な記憶が消えてしまわないように、たくさん、たくさん!ドール、君の名前はヘリオドール。僕の名前はゴシュナイト!≫
〔ナイトお兄様ッ忘れてはいけません!“アノ”彼が来ているのに、お持て成しをしないなんて!ほら、ティーカップを温めないと!でもお菓子が一番大切ッ!くきゃきゃきゃきゃッ!!〕
『…誰よ、貴方達は一体…ッ』
『この子達は君の精神世界の管理者。言葉では表せないほどの膨大な記憶の全てを処理し、忘却させ植えつける。何かを思い出す時に過去の記憶を参照する事が出来るのは、この子達が膨大な記憶の中からその一つを的確に提示する事が出来るからだ』
レイは今確かに私の方を見て、声をかけた。
先ほどまでの違和感が消え去り、何か胸の奥から抜け落ちたような感覚が残る。
本棚に飛ばされて尻餅をついてしまった私に、レイは手を差し出す。
その手を掴むけれど、いつも感じていた温かさが伝わらずに、そのまま引き上げられる。
しかし立ちあがった時の視点の低さと、レイの腹部が頭の上にある事に酷く動揺した。
『何よ、何ッ…背が縮んでるッ!それとも皆が大きくなったのッ!?』
『推定で5歳くらいか。君の現在の精神年齢だ。まだ開いている扉が少ないから低いのも仕方がない』
『精神年齢5歳…そんな、そんな…ッ。私ってそんなにアレ…なの?嗚呼、そうよ、これは…夢だったわ…。だからこれだけ変な事があったとしても…おかしくない』
『そう落ち込むな。私が開拓してやるから心配しなくてもいい。すぐに大人にしてやる』
体を抱えあげられて、腕を首にまわすように促される。
膝の裏側に腕を入れられるが、まるで重力が存在しないようにふわりと浮かんだ。
ヘリオドールとゴシュナイトと名乗った子供たちの前に連れて行かれ、レイは膝を折る。
黒く大きなシルクハットを被ったヘリオドールが恭しくお辞儀する。
帽子と服に付いた赤いリボンが揺れ、大きく膨らんだお揃いのかぼちゃパンツがなんとも可愛らしい。