独:Der Alte würfelt nicht.
――“精神をやられる”!?
あまりにも物騒なレイのもの言いに、彼の首に抱きつく腕に力を込めた。
ヘリオドールとゴシュナイトはお互いの手を取り合って、部屋の中心にある大きな円形のテーブルの上に飛び乗る。
その音に驚いたのか、部屋に屯するハチドリが一斉に飛び立った。
しかしここには扉はなく、部屋を飛び出そうとしたハチドリが天井に幾羽もぶつかる。
ハチドリが地面に落ちる事はなく、壁に衝突した部分が惨たらしいストロベリージャムの様なもので赤黒い染みをつける。
〔違うの、違うっ!精神を壊し凌辱するのは私たちじゃないのっ!くきゃきゃきゃっ!貴方よ、そこのムシュー、シャーナス!!くきゃきゃっ!!モルガはきっと腹ン中身ぶちまけて貴方と一緒にワルツを踊る姿は見ものっくきゃきゃッ!!〕
≪ドール、ヘリオドール!それはいったいどれぐらい楽しいものなのか教えておくれよ!僕は覚えていない、僕は忘れる事が仕事!だからケーキの甘さもハチミツのとろける感触も全て君に教えてもらわないと僕には何も分からないッ!だからお喋りをしよう!このテーブルが実はビスケットで出来ていて、食べると中にはたくさんのザラメが溢れだす話を!≫
〔えぇ、お兄様ァッ!“妹”はお兄様より“かしこい”のです!だから“妹”がお兄様の分までたぁあッぷり味わってあげるのッ!素敵ね、素敵ィイっ!!ほら、早く始めましょう?お兄様が出来なくなったから“妹”が扉を開けて差し上げますわッ!ほら、ほらほらぁああッ!!〕
≪さァ、二人で開けよう。扉を開くんだ。双子は二人でなら何だって出来る。ドール、ヘリオドール。どんな世界か楽しみだね、涙の海で溺れるか、月の揺り籠で転寝をするか。それは扉を開ける彼ら次第≫
ヘリオドールがゴシュナイトの腰を支え、体を反らさせる。
男とは思えない白い喉元がさらされ、眉をひそめて青く無機質な瞳を伏せた。
黄色い宝石を嵌めた小さな左手が、ゴシュナイトの胸元のリボンに添えられる。
小さな手に青筋が張るように強く爪を立て、“何か”を引きずりだそうとしていた。
その“何か”が外気に触れた瞬間、私の脳の中心部分がヒクつき疼く劇痛が走る。