独:Der Alte würfelt nicht.
未だにやまない劇痛の中、レイの腕が私の体を強く抱きよせる。
ヘリオドールはポケットから同じ柄のトランプを取り出し、スペードの5を中に混ぜ込んでいた。
それを丹念にシャッフルして、ふらつくゴシュナイトと半分に持つ。
彼らの解かれた右手と左手が再び繋がり、その反対の手には分けたトランプが持たれていた。
『…腹を括れアリス。痛みは“私の為に”我慢をしてくれ』
『嫌…駄目、あの、あの扉は…嗚呼。どうして、忘れて、忘れていたのに!どうして…!!嫌よ、嫌、どうして、どうして!見ないで、開かないで、覗かないでッ!!痛い、痛い…ぃいッ!』
『入れてくれ、記憶の門番の双子よ。そして、最奥のパンドラの箱へと導け』
その言葉に、まるで指を鳴らすかのようにトランプを扇形に広げ、無造作に腕を振り上げた。
ハラハラと舞うトランプが床に落ちると、その部分だけ床の色が変わるのだ。
舞うトランプの数字やマークは無く、真っ白のカードがはらはらと雪のように降ってくる。
最後の一枚のトランプが床に伏せられた瞬間、私はまるで違う世界に飛ばされたような錯覚に陥る。
――これは、そう…あの時だ。
私の手首を握る大きな手のひらは、その力を緩めることなく握り続けられる。
新しく目を出した草木の葉を肩で切りながら、足早に野良道を進む。
手の中に揺れるエリカの花は、指の圧に押されて若々しい緑に影を落とす。
あまりに足早に乱雑な道を通ったせいで、砂利に足を取られる。
膝に血が滲むけれど、その大きな手のひらはそんなことお構いなしに強く引かれた。