独:Der Alte würfelt nicht.
 
 
『アリス。もう君とはお別れだから。次に出会うのは…成長した君だ』

『私、は…酷い事をしたの。許されない事を、あの子に、あの子に…あんな酷い事をッ!お願い離して、謝りに行かないといけないの。ごめんなさいって、そうじゃないと…ッ!!』

『駄目だよ。君は今日、ここを出ていくんだ。ブランシュ家に引き取られて、君は外の世界に出る。ここに留まってはいけない。君の世界が終わって、また君の世界が始まる。それはきっと…素敵なことだよ』

『でも正しい事ではなかったわ。私は間違っていた。私は…一体どうすれば…』


私の手首を掴む力が緩まり、その大きな手のひらが私の顎を掴んだ。

空に浮かんだ翡翠の瞳がその傍らに輝く太陽より眩しく見える。

頬を撫でる彼の髪が心地よく、差し込んだ指の間に髪を馴染ませる。

もう二度と、声も、髪も、手の平も…感じる事が叶わないなんて。

物理的ではない痛みは心の奥深い部分で、波紋を広げてしまう。


『…まさか、君の涙が見れるなんて。…どこか痛いの?』

『…痛み?違うわ…きっと太陽の光に当てられて、気分が悪くなっただけよ』

『はは…面白い事を言うね。…違うよ、その痛みはきっと違う所から来てるんだよ』

『違う…所』


逆光で彼の顔が見えなくなったと思えば、ほんの数秒だけの息が途切れる。

私より幾分か大きな手のひらが離れて、名残惜しく私の細い髪が張り付いた。

それを解こうともせず、彼は人差し指と中指で絡め取る。

今までこんな風に触れられたことなど無くて、私はどうしたらいいか分からなくなった。

混乱する私を尻目に、彼はいつものように優しい笑顔を与える。




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