独:Der Alte würfelt nicht.
――ガラスの厳重な扉をくぐり、目に飛び込んできた光景に、息を呑む。
初めに目に付いたのは、本当のダイアを使用しているのではないかと見違えるほど、煌びやかに輝くシャンデリア。
壁には私でも名前を知っているほど有名な絵画に惜しげもなく来客用にひかれたペルシャ絨毯。
部屋の隅々にはステンドガラス製のガラス細工がライトアップされ、乱反射して独自の存在感をかもし出している。
「綺麗だわ。無機物は人の目の肥しになるのね。勉強になったわ」
「・・・もっと情緒のあることはいえないのか」
「あら。私ってそんなに可愛い女の子だった?」
「君は可愛いよ。端正な顔の下に獰猛な猛禽類を飼っていても、だ」
螺旋階段の中央にガラス張りのエレベーターが設置されているため、階段を上らず目的地にいけるらしい。
もちろん私達も階段を上るわけではなく、エレベーターに乗り込む。
今にも壊れそうだ、と思わせるほど華奢な音を立てて、私達を持ち上げた。
「失礼ね、私の皮の下にはメルヘンが隠されているのよ?」
「メルヘン、か。ロマンを知らない君がメルヘンを語る事があるとはな」
「女の子は色々素敵な物で出来ているの。だから脳内メルヘン物質が分泌されるのよ」
「くく、何だそれは。君は本当に面白い、私を飽きさせないな」