愛なんかいらない 〜キュート過ぎる部下〜
祐樹はフーッと息を吐き、ティーカップを持って口に運んだ。


「志穂さんも飲んで?」


「う、うん」


私はお父様の視線を避けるように下を向き、紅茶をほんの少しだけ戴いて、音を立てないようにそっとカップをお皿に戻した。


「実に美しい……」


不意にお父様がそう呟いたので、思わず私はお父様を見た。


「やはり祐樹は私の息子だな。女性の好みが私と同じらしい。もし私が若い頃にこの女性に会っていたら、一目で恋に落ちただろう。いや、今だって……」


「ちょ、ちょっと、おやじさん! 志穂さんを口説かないでくれよ。志穂さんは俺の彼女なんだし、おふくろさんに言い付けるぞ?」


祐樹はおどけてそう言ったけど、お父様は顔色ひとつ変えなかった。


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