保身に走れ!
イロハニホヘトのイがドレミのラから始まる理屈も謎で、
ピアニカもうまく弾けなかったから穂ノ香は音楽が苦手だったのだけれど、
ピアノを弾く一人の美しい姿を眺められるから授業自体は大好きだった。
短めの黒い髪はつむじから前に流してあって、襟足やもみあげが長くないし清潔感豊かにおでこが見えるところがツボで、
眉毛は同級生たちみたいに剃ったところが青い感じがなくいじっていないから望ましい。
流行りを無視した銀色の眼鏡は少々オジサン臭いかなと否定的に思ったことはなくもなかったが、
色白の肌に馴染むから似合っており、
また授業中にしかかけないため貴重だったせいで、ついつい凝視してしまう穂ノ香だ。
――といえば、嶋はイケメンインテリだと想像しやすいのだが、
それは恋する乙女ビジョンの話であり、
実際はただのダサいひ弱な存在感がない空気みたいな友達が少ない生徒で、つまり彼女の男版が彼のようなもので、
外見も内面も同等の冴えない日陰ポジションだった。
しかし、惚れた瞬間から一人の少女にとっては世界が違うキラキラ星の王子様に見えてしまっていたのだ。