保身に走れ!
「俺ってば顔が可愛いだけの彼女居るでしょ。したらさ、この前な、親がデキ婚だからお前もだらしないってジイ様とバア様に言わたんだよ。
ふ、とんだ偏見だろー。女子高生ばりに切ないわ。泣くわ、あはは。
しかもさー、お前と付き合う女なんだから彼女は下品だとかさー。俺をどんな人間だと思ってんだよ、なー?
身内とか関係ないよ、親戚に信用されてませんのよ俺。可哀相だろ俺。ふ、ウケるだろ?
俺そんな遊んでる? いやいや、まったく。真面目ですってば。なあ? 周防さん。あはは、思春期なのに俺ってウケるよなぁー」
左耳を指で引っ張り、肩を揺らし、自分の言葉に一人笑う少年が、
本当に笑っているのかどうかなんて馬鹿でも分かる。
ぺらぺら忙しく動く唇の意味が悲しくて、優しく止めてあげることができるのは、
他の誰でもなく顔が可愛いだけのお姫様なのだろうと読めた。
彼を笑わせることができるのは、穂ノ香や船場ではないのだと察した。
沈黙の方がマシだった。
小学生みたいな喧しい笑い声なのに、なぜだか肌に突き刺さってきた。