保身に走れ!
彼は変わっていやしなかった。
文化祭の時には自分を馬鹿にし穂ノ香を護ってくれたように、今は自分を下げ船場を庇ってくれている。
そういえば、以前はオカマちゃんと呼ばれる嶋を、『俺ってば高校服飾コース選ぶからオネエだろ』と、
自分を笑い、嶋を保護していた。
イジることに夢中なクラスメートの関心を、馬鹿騒ぎで自分に向けていた中学時代から、
高校生になり自虐ネタでクラスのターゲットを自分に移す魔法を使うように変わった始まりは、
嶋を擁護したあの日だったのかもしれない。
「…………ごめん、ね」
震える声は格好が悪い。
気になった。とある少年の心を射止めたとあるお姫様を知りたくてたまらなかった。
なぜか泣きたかった。
穂ノ香が初めて自分から異性に目線を合わせたなら、黒髪が似合う少年が笑っていた。
「周防さんよ惚気を聞いてくれ。俺ん彼女、俺の彼女サマはな、風邪薬ん食間をな? ボケ関係なくお弁当の途中で飲んだ古典的なアホなんだよ。おもんないだろ。
俺イタイからそんな彼女サマが気の毒でツボなんだわ、あはは。」
可愛いとか気が利くとか、優しいとか天然ボケとか、何かしらふわふわ甘い単語を告げれば正しいのに、
「ウザくてイラつくナルシスト女だから俺にぴったしだよなー類は友を呼ぶ例だわ」と、
中学時代よりもきついことを結ぶ唇だから狡い。
皆に慕われる分、デキ婚と陰口を叩かれ続けたお調子者は卑怯だ。
隠れたつもりでも太っているから壁より図体が飛び出て、
こちらにバレバレなのに気づかず盗み聞きをしている船場に向けて、彼は今話しているのだ。
そして、もう一人へと。
――告白をさせずに、そういう遠回しな振り方は狡い。