保身に走れ!


好きさえ言わせない。
それは好きというお前の気持ちが自分には要らないという意志表示だ。

つまり、ゴメンナサイの丁重で奥ゆかしい断り方だ。


案の定、アルバイト募集中の貼紙がされた階段に、哀しみの足音が確かに響いた。




「同窓会ん集合写真、あれだな、写真館予約してんのカラオケの後だからなあ。周防さん帰るし嶋は来ないし二人抜きになるな」

中学の彼なら、穂ノ香が帰ることを拒み嶋を連れ出したはずが、

高校の彼なら、そのどちらもしやしない。


「まあ、仕方ないか。次があるし。次があるけど嶋とか久々だったし会いたかったわ俺」

三組では、嶋という名前はイジり目的でしか登場しなかった。

それが今、出来た少年により綺麗なままで奏でられるせいで、穂ノ香の胸は高鳴った。



「つか、周防さん。知ってる? 嶋はフリーらしいよ」

元・クラスメートが喜ぶであろう情報を提供するということは、すなわち彼女を喜ばせようとしてくれていることに等しくて、

それはまるで恋人を楽しませようとお花見に最適な公園を調べることに似ており、

期待したくなる夢ばかりを散りばめていく。




けれど、


「じゃあな!」

帰るつもりのない少女を、少年はとびきりの笑顔で追い出してしまった。

だから、誰も彼女が失恋をした事実を知らない。

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