保身に走れ!

「つかやべえ、見ろって嶋クン、あれ手、残像やばくね?」

「やべぇウケる! ピアノ達者とかねぇし! キャラに忠実すぎ」


穂ノ香のクラスでは影響力があるペアの会話だからこそ、三列に並んで歌っているふりをする皆は盗み聞きをしていた。

それに気分を害したからといって反論する者がいるはずもなく、

ただ吸収するのみだったのは言うまでもない。


皆がそう、三組の皆は脳内で一人前に批判ができる癖に、勇気がないため誰も本心を口にすることはない。


「うますぎ、ボンボンだな、グランドピアノ家にある臭ぇな」

「ピアノは美少女のモンだろ、男が弾くかな男が、きっしょ」

また彼らがお喋りを続ければ合唱ごっこ中の生徒たちは当然、

貧乏クジで導きだされた指揮者の女子さえピアノを弾く男子に注目してしまっている。


噂をされている人物は穂ノ香の好きな人で、彼女は悲しい気持ちになっていた。

なぜって彼は何一つ悪いことをしていやしないのだ。

普通に音楽の授業を真面目に受けているだけで、茶化されるなんて気の毒なばかりだった。



けれど――――


< 13 / 122 >

この作品をシェア

pagetop