保身に走れ!
あの穂ノ香が人を庇えるはずもなく、
どちらかと言えばこういう会話のノリが学生にありがちな流れだと分かってしまっていた。
そう、これはいわゆるイジられてオイシイ状況であり、
けなされても愛があれば笑いに繋がる前フリで、そんな冗談をマジでとらえてムっとしたり失望したり抗議したりするなら、
そいつは学生の世界だとユーモアの分からない頭のヘンな人・可哀相な人だとされている。
だから穂ノ香は、ただ黙って好きな人の噂を聞き流す作業に没頭していた。
いいや、自分の意見を通す気合いがないヘナチョコ故に、情けないも押し黙るしか選択肢がなかったのだ。
「つか嶋ってナヨナヨ、華奢くね? オンナみてぇ」
「船場より細ぇよ、船場とやったら余裕でオカマちゃん潰れるな」
学生らしいユニークな下品会話に指揮をしている船場の顔が赤くなる。
新たに話題に加わった彼女はクラスメートに比べ、体格が良いせいでよく馬鹿にされているのを穂ノ香は当然熟知していた。
――いつだってそう。
渦中の船場だけではなく白髪がある人、不細工な人、受け口の人、
毛深い人、その他諸々見た目に特徴がある者は、日々彼らにイジり倒されていたが、
三組の該当者たちは不快なソレを我慢するだけで、誰一人として逆らう者は居なかったし、
逆に被害者を庇う勇者や加害者を叱る賢者も居なかった。