保身に走れ!
気の毒なことに穂ノ香のクラスは、和気あいあい皆ワクワクとは違い、
悪い意味で全員がノリを合わせる集合体だった。
「こら、私語誰だ? うーたーうー」
やっと先生が注意をすれど、もう間に合わない。
「ぎゃはは!」
「キャハハ!」
小学生を真似た清潔な爆笑とは違う嘲笑が相応しい雰囲気に賑わっている中、
笑っていないのは、下を向くから二重顎になる指揮者の船場と、興味がなさそうに無表情でピアノをただただ弾く眼鏡姿の嶋と、
誰も歌わない歌詞の口パクをする片思いに夢中な穂ノ香だけで、
三組は下品な笑いに皆が意気投合し、皆が喜んでいた。
だからだ。
『爽やか初恋ルンルン穂ノ香ちゃんってば頑張って告白するぞッ☆』の、
スキップやコンパクトが浮かぶポップな物語にはならなかった。
ただただ中途半端に努力のしようがない片思いをしつこく続けているのみだった。
そしてまた――