保身に走れ!
2・日常
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秋の空気はひやりと冷たく、身体の輪郭を音も立てずに通り過ぎていき、誰かを想いたくさせて、

冬の空気はギュッと濃縮され喉の奥から寒さを伝え、誰かと居たくさせて、

春の空気はスキップがてら背中を叩いて追い越していき、誰かに会いたくさせ、

そして今、夏を予感させる前の空気は太陽が地上を押し潰すように不快な暑さを含めて重たく落ちてくる。

梅雨らしい教室の空気、それは誰かにイラつきたくさせる。


テレビで特集されがちな最近の給食のハイカラメニューとは程遠い栄養の味がする昼の時間、――だから穂ノ香は男子が苦手なのだ。


「普通にやってたら彼女んオバチャン洗濯物入れててさー」

「うっわトラウマ!」

下ネタばっかりをわざと大声で話して、教室を凍らせて、

「やだー、へんたーい」と、明朗な女子がつっこめば下品に笑うか、


「船場ってダルマに似てね?」

「リアル、親戚じゃね?」

と、イジるというよりはイジメみたいにからかうしかしないイメージが染み付いてきた。


船場など穂ノ香からすればただのクラスメートなだけだから、

彼女が傷つこうが泣こうが苦しもうが同情心もさほど作用しないが、

彼らが嶋を『オカマちゃん』と呼ぶ度に、心の中がじくじく痛んだ。


その違いが思春期の恋なのかもしれない。

どうでもいい人には何も感情を揺さぶられることなく、ただただ傍観するだけの日々だった。

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