保身に走れ!
去年は楽しかったのにと、ふて腐れた穂ノ香は深い不快ため息をはいた。
聞こえている悪口に無反応は逆に辛い。
もう一度嶋を見つめるも、あと四十秒凝視しようが目も合うことすらなさそうだった。
彼女が普段無愛想な彼が笑ったのを見たのは、ちょうど去年の今頃――――
今年のクラスメートは盛り上りがないし団結がないしつまらない。
合唱コンクールがいい例だ。
二年生の時は男子と女子両方から好かれる人気者タイプの奴が、
『合唱コンクール、略して合コン! 合コンは青春ごっこしよう!』と、わざと皆を盛り上げていたから、口パクをする生徒など居なかった。
むしろ一生懸命熱くなる人間をダサいと思う奴こそ、逆にセンスがないと認識される空気だったように思う。
そう、当時はゴミ当番を皆が行きたがったし、黒板消しを皆がしたがったし、先生が募った放課後のファイル整理を皆が手伝いたがったし、
教室で道徳要素に意欲を見せる者が皆に一目置かれていた。
つまり、今と一年前ではクラスメートの雰囲気が極端に違った。
十四歳は虹色、十五歳は灰色の絵の具が相応しい差が、他力本願の穂ノ香は悔しかった。