保身に走れ!
たとえば、伴奏を選ぶのだって、今のクラスみたいにリーダー格の男女が独断で『二年ん時にしたやつがしろよ』と、
強引に押し付けることなんてなかったし、
指揮者だって『委員長なら責任持ってやれ』と、既に委員長を無理やり任せられた人間に強制することなんてなかった。
去年は『抜き打ち校歌を上手に弾けた奴に伴奏決定』と、いきなり一人の生徒が全員参加のピアノオーディションを提案し、
五分後にはイカついと定評のあるヤンキーや情に厚いと有名なギャルや、可愛くないのにモテる子や地味な穂ノ香だって弾かされ、
そこで達者な結果を残した嶋が選ばれた訳で、なにもかも学生イズムが今年とは別次元だった。
十代らしい可愛い意味でふざけたノリだったから、『嶋こそ選ばれし伝説のピアノボーイだ』とか『合コンが終わるまで嶋様の指を護ろーよ!』とか、
なんとも寒い空気をネタに男子と女子が綺麗に爆笑できていた。
恐らく、本人たちもユーモアのかけらもないやりとりに気づいていたはずなのだが、
愉しみたいと努力して心を浮かせる故に、つまらない日常がキラキラしていたのだと思う。
今を輝かせるか潰すかは、自分のテンションを上手に操れてこそなのだろう。
つきつめれば、三年生が憂鬱な理由は穂ノ香の気分次第なのだけれど、そこのところを見逃して周りを否定するのが彼女の性格そのものだ。