保身に走れ!
そこには、貧相な体型で意志が弱く影響力ゼロの男子生徒に対して、
『オカマ』とか『坊ちゃま』なんて意地悪な野次が飛ぶことはなかった。
ふくよかやぽっちゃりをデブやブタと表現する言葉も皆無だったから、万年二重顎の女子生徒を標的にする者も居なかった。
そう、穂ノ香は去年のメンバーが楽しかったのだ。
なぜって、イベントがない日もムードメーカーの奴が先陣きって、十分休みやら昼休憩やらには教卓に居座り、
存在感の薄い生徒たちをイジるよりは笑わせようと滑り倒し、
結果、彼の自虐ギャグが誘い水となり皆が笑って、教室が明るなりキラキラしていたためだ。
一応グループに分かれていたが、それぞれが時計の下に注目しており、一体感があった。
毎日を無駄に全員が歯を見せていたと思う。
毎日を全力で青春の色に塗れていたと思う。
そうして合唱コンクール、嶋がピアノ、伴奏を選んだテンションのまま指揮者をどうするかという話になった。
すると、先程のお調子者が『俺がする!』と叫び、それに連なり『俺がする』『私がする』『オレが』『アタシが』と、
よくテレビで見かける茶番を真似た流れになり、
普段大人しい穂ノ香もつい面白くなって『じゃあ私が!』と、キャラにもなく弾けた時だ。