保身に走れ!
普段は授業をサボるヤンキーと言われる人は、こういうイベントの時に顔は出すけれど、
仲間とつるみ参加しない色が強いはずが、ちゃんと二組なら笑っていて、
いつもは小悪魔で同性から半端なく嫌われてる子でも笑っていて、通常は空気みたいな存在の生徒でも笑っていて、
そんなフレンドリーな隣のクラスの雰囲気が、素直に穂ノ香は羨ましかった。
三組の連中は彼らを痛いと馬鹿にするのだけれど、彼女には青春臭い貴重な光景だと思えた。
穂ノ香たちのクラスは『合唱コンクールなんかに必死になるとか普通に格好悪い』と、ちっとも今を大事にしていやしないため、
せっかくのイベントも怠い行事という認識なものだから、
今を愉しもうとする姿勢が皆同じベクトルである隣の組が羨ましかった。
二組がキラキラしている意味を知っている人はきっと三組には居ないのだろうと、ずっと前から穂ノ香は思っている。
……つまんない
嶋のピアノは上手だと知っていたけれど、よく聞けば下手くそなのかもしれない。
去年プロみたいだと感動したのは、皆が創る贅沢な笑いの中にあったせいなのかもしれない。
そう考えたなら、ますます自分が所属する三組が嫌いだった。
さっき一人で立っていたはずなのに、あのお調子者のクラスの仲間たちがちらほら立ち、
「賞状くださーい」と校長先生に叫びはじめ、
そうしたら保護者周りの空気までもがすぐに変わる。
体育館に居るほとんどが、中学生らしい中学生を演じる彼らに憧れていたのだろう。
幼い一体感は楽しそうで羨ましかった。
穂ノ香はずっとずっと二組が羨ましかったし三組がうらめしかった。
それから一人の少年が大好きだった。