保身に走れ!

「はいはい、じゃあ三の二は元気ですからね、特別にパイプ椅子を片付けま賞をあげましょう」

可愛らしい野次をあげる子供と、優しく包み込む大人が繰り広げる茶番劇が何故か卒業した穂ノ香には特別な記憶となるなんて、

まだ今の彼女は知らなかった。


バドミントンの羽根が舞ったままの天井付近には、校長のありがたい言葉がまだ残っている。


老人の癖に使い古された洒落が通じる彼の粋な計らいで、本当に三年二組が後片付けをしている光景を、

「うわ、だっりぃことしてんな」とか「校長どんなご褒美よ」とか、

穂ノ香のクラスメートたちは笑って通り過ぎていったのだけれど、

やっぱり彼女は全員でパシリに励む隣のクラスが最高に羨ましかったのだ。


去年は打ち上げをしようと自然に盛り上がったのに、今年は誰も頑張らないから普通に自由解散でつまらない。

嶋どころか全員に笑顔はなかった。
なぜなら合唱コンクールというイベント自体がダサいのに、それを愉しむなんて痛い奴という認識だからである。


仲良しグループにわかれたなら、それ以上は関わろうとしない世界観が憂鬱だった。

もしも三組に今、あのお調子者の少年が居たなら、彼は一人でも物おじせず半笑いで窓を開け、

教室のこもった臭いを入れ換えてしまうのだろう。


皆をプラスに引っ張るタイプと皆をマイナスに引き込むタイプは、どちらも非常に中学生らしく、

クラスメートがリーダーにどちらの色を選ぶかは、結局連帯責任なのだろうが、それでも嫌で嫌でたまらなかった。

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