保身に走れ!
「昨日オカンにカジュアルにやらしー本見つかった」
「うわ、リアルホラー」
「もー、やめてよー男子」
「……文化祭、出し物、……誰か」
まとまりがない教室には誰も情がなく、自分たちのグループが満足なら周りはどうでもいい派手な組、
自分たちのグループに直接害がないなら、周りのアレコレを受け流す組の主にツーパターンで、
当然後者の穂ノ香だって、三組には熱い思い入れがない訳だ。
つまらない毎日にため息ばかりで、三年生という人生のスパンは憂鬱だった。
そうして現実逃避か、やっぱり去年が良かったと彼女は懐古していた。
あの時は――――
二年生の時は多数決でお化け屋敷をすることになり、そこまでは分かるが、全員キャストになることを例のお調子者が独断で決めた。
普通、イベントは明朗なグループのみが楽しんで、その他は大道具とか解体とか疲れるだけの雑用を押し付けられるばかりだったが、
それを去年はお調子者が『平等あみだクジな』と、皆に配役を与えて、
凄く凄く楽しかった。
クラスメートの陰が薄い子や嫌われている奴、色んなネガティブメンバーにまでしっかり気を配り、
しかしそこにはむさ苦しい友情感はなく、ゆるいユーモアに溢れた笑いが漂っていた。
カジュアルに教室を爽やかな雰囲気に染めるのは、
いつだって嶋と反対の人間性をした少年だった。