保身に走れ!
大人しい穂ノ香が群れることを苦手とするのは、自己防衛の域に積極性や社交性がないからで、
本当は皆と一緒にまとまることに人一倍憧れていた。
去年はお調子者のお陰で毎日がスキップできそうな心だった。
たとえば二年生の時の文化祭は、
お化けメイクを女子が男子に施してみたり、花子さん役になった男子が女子に制服を借りたり、
そんな風にチームプレーが自然と可能で、一年生の時に避けられていた子にさえ活発な者が親しげにできていて、
今のクラスならば確実に嘲笑われて隔離されるグループを、しっかり明るさで包んでくれた。
それがいつだって一人の少年によるきっかけ魔法だなんて、
誰も知らなかったし知ろうともしていなかった。
ただ、人間観察が趣味という可哀相な周防穂ノ香が一人気づいてしまっていただけだった。
そんな背景から、あの嶋が猫娘をしていたのだが、あまりの似合わなさ具合に座敷わらしの穂ノ香はつい爆笑してしまった。
好きだった、穂ノ香は嶋が大好きだった。
いつだってそう、お調子者が青春の中に居たから彼女は綺麗な恋ができたのだ。
汚れている今年はなにもかもつまらない。
三年生はどうしてか嶋の魅力がよく分からない。
「誰か意見出しなよー船場さん困ってんじゃん」
女子のピンボールみたいな弾けた声は優しい助けではなく、皆に船場を見世物にする野次であり、
余計穂ノ香は不満だったため、男子も男子で女子も女子で全員性格が悪いと呆れるしかなかった。
「あれ、あいつ」
一人の発言を追えば、授業中にもかかわらず足早に廊下を走る生徒がいる。
なぜか通学かばんを持っているその少年の姿に、彼女の胸は暴れだした。