保身に走れ!

彼の両親は、奴らの発言みたいにニュース覧をなぞった通りの典型的なネグレクトではないと、

穂ノ香は信じていた。


なぜかというと、去年同じクラスの時に早退生徒が休んだ際、

近所だからと宿題プリントやら班の人の手紙やら連絡帳を届けに玄関先までお邪魔したのだが、

記憶の限り靴箱には家族写真が飾られていたし、庭には手作り感漂うアットホームなポストがあったし、

それらをまとめるなら明るい幸せなイメージしか似合わない。


息子である本人だって何ら問題はないのに、なぜ平気な顔で彼をこけにし笑えるのだろうか。


誰かをネタにイジることがオシャレで、

それを否定する奴が空気が読めない人間だとされる三組に所属していることが、無性に恥ずかしくなった。

皆が下品に笑うクラスで唇を吊り上げないのは、くせ毛の姫と黒髪王子の二人だけだった。



しかし、七秒後には転機が訪れる。


「あだ名がデキ婚って直球でウケるよねー?」

後ろの席の子に背中を軽くノックされたなら、

授業中だろうが学生をしている場合は、瞬時に反応を示さなければならない。

ルールに従い穂ノ香が振り向けば、

特別可愛くはないがギャルグループに所属しているため、傲慢な性格をした女子がニコリと微笑み、

自分の返事を待っていた。


  …………。

同調は輪を乱さないチープな基本で、共感は仲間意識が高まる簡単な方法で、

なにより小心者は自己愛の塊なため、はみ出すのが怖い。

「うん! ウケる、親譲りで本人遊んでそうだもんね!」


唇に呪いが働き、穂ノ香はクラスメート同様にしっかりと笑うことができていた。


そう、誰かと絆を結びたいなら、誰かをネタにしておけば誰かとスムーズに平和でいられる魔法は、

中学生の青春処世術だと皆知っている癖に、

知らないフリをする――それが普通だから彼女が特別最低な女の訳でもない。

ただ、少年を想う心が腐っていく音がしただけだった。

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