保身に走れ!
合唱コンクールも散々でこの調子だと文化祭もアレになりそうで、
だったら体育祭も最大の思い出となる修学旅行さえも最悪っぽいのなら、
いい加減クラスメートに不満を抱えることに呆れてきたから、それでいい。
穂ノ香の記憶は中学二年生を大切にできたらいい、三年生なんか大嫌いだ。
「てか今日暑くね? 船場見るだけで暑苦しいわ」
「ほんまそれ! 汗テカってんだよ」
「もう男子サイテー、本当のこと言ったら可哀相でしょー?」
皆うざ、皆嫌い
せいぜい口内から頬を噛んで悔しさを耐え忍ぶしかできなくて、
デキ婚があだ名の少年にしろ太っているだけの船場にしろ痩せているだけの嶋にしろ、
イジられている子の気持ちを思い、『可哀相だからやめなさいよ』とか、
『あなたたち性格が悪いわよ』とか、
誰かのために一生懸命になる主人公による思春期をイメージした正義感たっぷりな脚本は、
穂ノ香がなぞれそうにもない。
無口な嶋の笑顔を見ることが不可能に近いクラスは死ぬ程つまらない。
噂の彼が腕に力を入れ自転車を立ち乗りでペダルを漕いでいったのを横目に、
彼女はわざとらしくため息をはいた。
去年のお調子者が居たならきっと教室という舞台は美しかったのにと、愚痴ばかりが募る三組は終わっている。
胸の高鳴りは甘く蕩けるメロディーを奏でられず、嘲笑が不協和音の如く大切な乙女心を鬱に揺らぐ。
中学生らしく清らかに淡い片思いをしても、こんな汚れた世界では叶うはずがない。