保身に走れ!
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太陽がまだ東の奥、空の端にある翌朝、覇気がない担任が言った。


「文化祭の案、発表します」

席に着いている生徒は頬杖をついてぼんやりとしていたり、腿の上に次世代携帯電話を置いていじっていたり、

後ろの子とお喋りをしていたりで、あんまり教壇に立つ人物に注目はしていない光景が三組の特徴だ。


「じゃあ発表します」

誰ひとりとして注意をせずに、担任が自己完結で放任主義となってしまっている環境は、

穂ノ香の好みではなかった。


最近は保護者たちが先生にクレームをつけたがるらしいが、

穂ノ香的に先生は浮かれたいピークの大学時代から勉学に励み試験を頑張ったそれなりに優秀な人なのだから、

文句ばかり並べずに、少しは労い尊敬すればいいのにと思う。


「俺らん担任まじやる気なさすぎだろ、給料泥棒とかクズ」

「だりぃのはこっちじゃん?、社会ナメてる的な」

接客態度にイチャモンを付けるお客様とか、顧客より己の利益優先で経営方針に口を挟む株主様とか、

若いママの立ち振る舞いを否定する母上様とか、躾と称して虐待に熱心な親御様とか、

変に歪んで感性が動物みたいなお子様とか、それ近辺の人類――マイルールによる上から目線で立場を悪用しワガママばかりな連中と、

クラスメート全員はどこか内面の構造が似ていると穂ノ花は考えていて、


そんな悩み事は、ゆとりと呼ばれる自分たちが成す十年後の社会が怖いという発想にまで発展していた。


そう、大人しいだけで上手く皆と絡めない彼女は、スイッチが入った時が恐ろしくて堪らなかった。

例えば、たまにニュースで報道される同世代の動機がリアルホラーな殺人未遂とか。



「船場委員長の癖に頼りねぇなー。存在感だけはドスコイやべぇのに」

意地悪ばかり。
小学校の道徳で習った皆が皆に謙虚な姿勢である美学をどうして忘れるのかは、

まだ子供だからと年齢を逃げ道にする少女には分からない。

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