保身に走れ!
木の下には変身コンパクトの煌めきのような粒が踊り、清々しさを助長し、
お昼前の運動場には生徒らの掛け声が空の奥まで吸収されていく。
「最っ悪。なんで合唱なんかにしたの?」
腕をお腹の前で組んで怒りをあらわすわざとらしくてウザさ炸裂な亜利沙が穂ノ香に少し詰問してくるものだから、
だったらお前が代案を出してくれと、穂ノ香だって彼女に苛々した。
また、「信じらんない」としつこく非難してくる相手が親友だという設定が信じられやしなかった。
まさか本人だって文化祭の出し物が合唱になるとは考えてもいなかったのだ。
ただ、なんとなく嶋が一番素敵な瞬間を中学最後に見たかったという軽い気持ちなだけで、
まさか誰も先生にメールをしないなんて思わなかったのだから、仕方ないじゃないか。
「周防うっぜ」「ゴーストねぇわ」と男子が、「周防さんなんでメールしたのー? 空気読めないとかナイよ」と女子が、
不満を積極的にアピールしてくる皆は、文化祭で合唱を強制されることが気に食わないらしい。
知らないよ、困るよ、
なんで先生名前公表すんのよ
ただ言い付けを守っただけでクラスメートたちに責められる筋合いはないと、
不満に思うも、意志が弱い彼女には抗議を行うなど無理な難題だった。
そして、再び貧乏くじを引かされ迷惑しているであろう指揮者が睨んでくるも、
淡泊な演奏家が一人読書に励むのみの実情が切なかった。
、はあ
つまんないよ
こんな時に、教室をステージにユーモラスな少年が中学生を演じたなら、
三年三組はどのような魔法にかけられたのだろうかと、発案者はそんなことを他人任せに考えてみた。